アーヴィン・ラズロ博士

アーヴィン・ラズロ博士の業績として、今回は、2008年9月に出版された博士の近著「コスモス」を取り上げたいと思います。


“コスモス”
アーヴィン・ラズロ ジュード・カリヴァン 著
村上和雄 監修、和波雅子・吉田三知世 訳、講談社 発行

本書に掲載されているラズロ博士の略歴は以下の通りです。

アーヴィン・ラズロ(Ervin Laszlo)
ピアニスト、哲学者。世界賢人会議「ブダペストクラブ」会長。原子・人間・宇宙に存在する一貫性のある原理・構造を探究する「システム哲学」を提唱し、その発展に努めている。ニューヨーク州立大学教授、ベルリン国際平和大学理事・教授、国連調査訓練研究所所長、ユネスコ顧問などを歴任。04年、05年、ノーベル平和賞候補。

博士は9歳の時に天才ピアニストとしてデビューされましたが、その後、哲学や物理学にも深く傾倒され、さらに国連においても大きな業績を残されています。芸術と科学の両方に精通した「知の巨人」とでも形容すべき偉大な科学者です。ブダペストクラブなどを通じて、世界の芸術家、宗教者たちとも交流を持たれています。

私たちは、2004年11月27日・28日に東京で「第1回Water for Life フェスティバル」を開催し、2日目には映画「ガイアシンフォニー第5番」の上映を行いました。この時のゲストのお一人として、同映画にも出演されているラズロ博士を日本にお招きして、講演していただきました。

それ以来数回にわたって、江本代表や私たちスタッフは、ラズロ博士にお目にかかる機会を持つことができ、昨年2008年10月2日には、ラズロ博士はブダペストクラブの科学部門の責任者であるマリア・シャギ博士を伴って、初めてオフィス・マサル・エモトのオフィスを訪問してくださいました。

同じタイミングで、イタリア・トリノから、故ジャック・ベンベニスト博士の共同研究者であった波動転写の専門家マシモ・チトロ博士も来日されていて、私たちと共同研究を行っていました(ベンベニスト博士、チトロ博士については、稿を改めてご紹介いたします)。

これら海外からの3名の博士とともに、私たちは水の結晶写真撮影法に関して予備的な実験を行い、有用なアドバイスを頂くことができました。


オフィス・マサル・エモトにて
向かって左から、ラズロ博士、シャギ博士、江本博士、チトロ博士

「コスモス」は、現代科学の各分野における最先端の発見や業績を紹介しながら、それらを統合することによって得られる革命的な世界観について、一般の人々にとっても分かりやすく説明しています。

もっとも重要な概念の一つは、量子物理学の世界で実験によってその存在が明確に証明された「非局在性」と呼ばれる現象です。「コスモス」には以下のように記されています。

私たちは、宇宙全体を、エネルギーと情報がホログラム的に相互に結びつけられたネットワークとしてとらえはじめています。私たちを含めた宇宙の万物が、これまで常識とされていた空間と時間の枠を越え、ほかのものすべてと非局在的につながりあっているのです。(10頁)

「非局在的につながりあっていること」がすなわち「非局在性」であり、その具体的な意味は以下の通りです。

「仮に双子の粒子一組が創られ、その後分離されたなら、それらは空間と時間のなかでいかに遠く離れ離れになっても一つの実体として振る舞うだろう。そして、一方の属性が変化すれば他方にも瞬時にそれに応じる変化が表れるだろう」と。いわゆる非局在性です。(24頁)

すなわち、「一旦何かしらの縁をもった素粒子の一対については、それらが互いにどれだけ離れていようとも−たとえ宇宙の端と端まで遠く離れてしまったとしても−片方を観察してその性質を明らかにした途端にもう片方の素粒子の性質が瞬時に変化する」ということなのです。

非局在性という概念が生まれるまでは、物理学者たちは、「宇宙は局在的に振る舞っている」と考えていました。これは、重力であれ、磁力であれ、いかなる作用であろうとも、源からの距離が離れれば離れるほど、それは必ず弱くなっていくということであり、私たちの日常的な感覚と一致しています。

非局在性という性質はこの直感的な見方に反するものであり、どんなに距離が遠く離れても、瞬時に情報が伝わることを意味しています。しかもこの情報伝達の速度は光の速度を遙かに越えることができます。

アインシュタインすらもそのような現象はあり得ないと考えていたのですが、1980年代に行われた実験によって、「この宇宙は実際に非局在的に創られている」ということが明確に実証されたのです。距離に無関係に素粒子の間で情報が瞬時に伝わるこの現象は、「絡み合い」とも呼ばれています。

現象の存在が実験によって議論の余地なく実証された後も、実は長年にわたって多くの科学者は、こうした「絡み合い」は素粒子レベルの極めて微小なスケールでのみ観察される、と信じてきました。

ところがその後、さらなる実験が重ねられ、2005年には複雑な有機分子においても「絡み合い」が起こることが証明されました。そして現時点においては、理論上、絡み合った状態にはスケール面での制限がない、と考えられています。

さらに進んで、「コスモス」には以下のように記されています。

いまや、私たちの精神も非局在的なつながりをもっているという科学的証拠は広範囲に及び、その数もどんどん増えています。

すなわち、この「非局在性」すなわち「絡み合い」という現象を通して、「宇宙に存在するすべてのものは−私たちの精神すらも−互いに繋がっている」と考える方が、現在においてはより科学的であり、自然なのです。

霊性や宗教の世界においても、大昔から「すべては繋がっている」「すべては一つである」と言われてきましたが、現代科学において発見されたこの「非局在性」「絡み合い」という現象こそが、これらのスピリチュアルな命題の科学的な基盤になっていると考えることができるのです。

従って、当然のことながら、人間の意識と水の分子の間にも、「絡み合い」があると考えることができます。

さて、「コスモス」の中で、より直接的に「水」について触れている部分を2か所、以下にご紹介します。最初は「複雑性」という観点からのものです。

増大していく複雑性につきものの性質として、より高レベルの情報を体現できるという一面があります。そういう意味では、系の全体は常に部分の総和を越えるのです。

たとえば、水素原子と酸素原子の特性を理解していても、水分子が持つ創発的特性を充分に説明できるわけではありません。そして、水分子の特性を説明できたとしても、それだけでは川や湖のような複雑なスケールでの水の振る舞いは理解できないのです。つまり、個々のレベルが次のレベルの可能性を定める一方で、増大する複雑性のレベル同士のあいだには、総じて構成要素と相互作用によっては予測できない因果関係の溝があるのです。(60頁)

水を例にとれば、水はH2Oであり、水素原子2つと酸素原子1つで構成されています。しかしながら、水素原子と酸素原子のそれぞれをいくら深く研究しても、これらが合わさってできた水分子の性質を理解することは不可能でしょう。

なぜかと言えば、複雑さのレベルが一つ増えることによって、下位のレベルにおいては観察されなかった−そしてまた下位のレベルの情報を合わせただけでは推測しえない−独特の現象が生じてくるからです。「予測できない因果関係の溝」と表現されていますが、これもまた、現代科学において導き出されている科学的な帰結の一つなのです。

「川や湖のような複雑なスケールでの水の振る舞いは理解できない」とありますが、理論的には「水からの伝言」が示している「水の結晶」も「川や湖」と同様であり、結晶が成長していく時には、それ以下のレベルにおける知見からは予測不能な新規現象が生じる可能性があり得るのです。

さらに、「水からの伝言」が主張している内容と直接的に関係している、「水の不思議」という見出しの付いた一節を以下にご紹介していきます。

エネルギーとそれが運ぶ情報の伝導体、変換体、共鳴体としての水が持つ深い重要性も、今、明らかになりはじめたところです。

水が生命にとっての鍵であることはすでに知っていた私たちも、それがどれほど特別なものかには気づいていないかもしれません。生きている細胞の内部の水は、よく海水にとても近いものとしてとらえられますが、ある点で決定的に違います。というのも、私たちの体内の水は海水にはない非常に明確な構造を持っており、こうした整った秩序は細胞が健康に機能するために欠かせないものだからです。電磁場の背景共鳴が生体場の一貫性を増す一助となるように、場の伝導体としての水も、情報の貯蔵・伝導・変換能力を高めることで、私たちの体がバランスと調和を保ちやすいようにしてくれるのです。(178頁)

私自身個人的には、「水からの伝言」の意義について、「『水は情報を記憶する可能性がある』ということを、一般の人々に向けて、視覚的に訴えかけた」ことにあると理解しています。

それに対して、一部の科学者たちの中には、「水が情報を記憶するはずがない」「そんなことは科学的にあり得ない」と批判している向きもあります。

ところがどうでしょう。「知の巨人」ラズロ博士は、「まさに水こそがエネルギーや情報を運ぶ伝導体であり、情報の貯蔵の役割を果たしている」と断定されています。

実は偏見や先入観にとらわれることなく、丹念に現代科学における研究業績を辿っていけば、ラズロ博士が述べていることこそが、自然で科学的な結論として導かれてくるのです。

ラズロ博士ご自身もまた「コスモス」の中で、科学者たち一般に対して、頂門の一針とでも形容すべき辛口の批判を展開していますが、第一線で活躍している数多くの科学者たちと親交のあるラズロ博士ならではのものでしょう。

大多数の科学者たちは、自身の専門分野のみに集中しています。そのおかげで、特定分野の特徴についてはどこまでも深く追求していけるのですが、結果として、より広い世界に対する理解は狭まり限られてしまうことになります。たとえば生物学者の場合、物理分野や複雑系科学における新発見のことを知らないだけではなく、理解そのものがだいぶ遅れていて、すでに時代にそぐわなくなった世界観に捕らわれている人がほとんどである、というようなことが起こってしまうわけです。それなのに彼らは−大半の科学者や古い信仰体系に凝り固まった宗教家と同じく、新しい広範囲な知識に欠けているくせに−大上段に構えた話しかたをすることが多いのです。

実際、第一線の科学者であっても、現在のパラダイムには収まりきらない発見をすべて包含できるような新たな世界観を把握し、その発展に一役買おうという広い関心や気づき(アウェアネス)を持ち合わせた人はごく小数です。(184〜185頁)

解説は不要でしょう。まさにラズロ博士が書かれている通りのことが起きています。

ラズロ博士がさまざまな著書を書かれている目的は、人々の意識を高めることによって、現在危機的な状況を迎えている地球人類が、試練を乗り越えて大きな跳躍を果たし、大調和の世界を作り上げていくことを助けることにあります。

ラズロ博士の真骨頂を示す部分を以下にご紹介します。

あらゆる革命がそうであるように、社会の根本的変化とは現状を代表する既得権者組織の主流または中心部から起こるのではなく、社会の周縁で新たな存在のありかたを模索する人々の手によって起こるものです。(269頁)

「社会の周縁で新たな存在のありかたを模索する人々」とは、まさに今、本稿を読まれている読者の皆さんではないかと私は考えております。

そして以下にありますように、これを成し遂げる上でもっとも重要な要素は「拡大した気づき」すなわち「意識の変化」なのです。

コスモスとともに共-進化するチャンスをしっかり受け止め、受け入れられるかどうかは、私たち次第です。そのために必要なのは権力や富ではなく、拡大した気づきなのです。また、自分たちをお互いに、そして全体として一貫性ある世界のすべてと結びつける変化を完成させることも必要です。

意識的に一貫性を持った人間も宇宙の(コズミック)一貫性の一部です。その人は世界と「同調」しているのであり、その周囲には一貫性のグループが生まれ、育ち、広がっていきます。クリティカル・マス、すなわち必要最低限の数の人々が自ら奉じる一貫性を取り戻し、相互の結びつきを果たすときが来ます。そのとき、一貫性は後戻りできない方向に向かってすぐさま人類全体に広がり、人類から地球の生物圏へ、そこから銀河やコスモスへとさらに拡大していくでしょう。ですから、こうした進化における次のステップを全うするにあたって、私たちは最高に意識的な共-創造者となり、地球上での、そしてコスモスのなかでの人類の使命を果たすべく大きな跳躍に踏みきるのです。(290頁)

世界を変えていくために、「クリティカル・マス」すなわち「必要最低限の数の人々」の一員となっていきましょう。