ジェラルド・ポラック博士

前回、「水の記憶」を説明する一つの仮説として、ペンシルバニア州立大学のラスタム・ロイ博士の「エピタキシー」という考え方に触れました。これは、「水に溶けている物質が鋳型となって水に働きかけて、水に物質の形の情報が転写されていく」という仮説です。

エピタキシーによって変化するのは“水の構造”であり、水の化学的組成はあくまでH2Oであって変化しません。

映画“ウオーター”においても何度も登場する“水の構造”ですが、その構造の違いを実際に明確に示すことは容易なことではありませんでした。ところが、過去数年間にわたって、ワシントン大学生物工学科のジェラルド・ポラック博士によって、まったく新しい種類の“水の構造化”に関する研究が進められており、大きな成果を収めてきています。

そこで今回は、このポラック博士の研究について、ご紹介いたします。専門の科学者が行ってきている具体的な研究についての解説ですので、少し理解しにくいところもあるかも知れませんが、要点を汲み取っていただければ幸いです。


ジェラルド・ポラック博士(ワシントン大学生物工学科教授)

ポラック博士は、水分をたくさん含んだゲルと呼ばれる物質を実験材料に使いました。寒天やゼラチンもゲルの一種です。プリプリっとした質感がありますが、それはゲルがたくさん水を含んでいて、“親水性”と呼ばれる水によく馴染む性質を持っているからです。

このゲルを水の中に入れると、ゲルの周囲は水で取り囲まれます。みつ豆に入っているさいころ状の寒天を水の中に入れたところを想像してみるのも良いでしょう。

顕微鏡を使って回りの水に接しているゲルの表面を拡大して観察してみると、透明な水が一様にゲルを取り囲んでいるのが分かります。それ以外に特に目立ったことは観察されません。

次にポラック博士は、ゲルの回りの水に、ラテックス微粒子の懸濁液を加えてみました。ラテックス微粒子は極めて微細な粒子であり、その直径は1ミクロン(=千分の1ミリ)程度です。小さくて軽いので、重力によって沈むことなく、水の中に浮遊し続けます。

顕微鏡で観察してみると、無数のラテックス微粒子がゲルを取り囲む水の中に均一に浮遊しているのを見ることができます。ところが、続けて観察しているうちに、極めて興味深い現象が起こりました。

ラテックス微粒子が、ゲルの表面から押し出されるようにして、どんどん離れていき、その結果として、ほんの数十秒間の間に、ゲル表面から外側に向かって、ラテックス粒子がほとんど観察されない水の層が作られたのです。

図1をご覧下さい。gel と書かれているところも含めて、図の左半分に、親水性ゲルがあります。中央辺りを縦に走っている細い線が、ちょうどゲルの表面になります。


図1
左側半分にゲルがあり、ゲル表面はほぼ中央に位置している。gelという文字のすぐ右側に縦に走っている太く明るい構造は、光の屈折によって人工的に生じたものであり、無視してよい。右半分にはラテックス微粒子の懸濁液が注がれているが、ゲル表面から右側に向かって200ミクロン以上の厚さに渡って、白く光るラテックス粒子が排除されている。これが「排除層」であり、EZと記されている。

右端に顆粒状のものがたくさん集まっているのが観察されますが、この顆粒のひとつひとつがラテックスの微粒子です。

ラテックス微粒子の懸濁液を加えた直後は、ラテックス微粒子がゲル表面に接する辺りまで、均一に分布していたのですが、徐々にラテックス微粒子がゲル表面から排除されて、数十秒後には、ラテックス微粒子がまったく見られない水の層(図1でEZと記されている部分)ができたのです。

ラテックス微粒子を排除する性質を持っているので、この水の層は「排除層」と名付けられました。

ポラック博士は、親水性ゲルの素材をさまざまに変えて実験を行ってみました。その結果、必ずしもゲルではなくても、その材料の表面が親水性であれば、すなわち水に馴染む性質を持っているのならば、同様の現象が観察されることが分かりました。生物材料である筋肉の繊維などを使った場合にも、その周囲に「排除層」が作られました。

逆に、水をはじく性質を持った物質の表面には、この「排除層」は形成されませんでした。

次にラテックス微粒子の代わりに、タンパク質分子や低分子化合物、赤血球や細菌などを水の層に添加して、同様の実験を行ってみましたが、いずれの場合も、ラテックス微粒子の場合と同様に、「排除層」が作られることが分かりました。

従って、「排除層」の形成は、特定のゲルと特定の溶質(=水の層に加えたモノ)の組み合わせの場合だけに起こるのではなくて、広く一般的に観察される現象であることが分かりました。

また、「排除層」の厚さは、いつでもほぼ数100ミクロン程度の厚さを持つことが分かりました。

この「排除層」の部分で何が起きているのかを調べるために、ポラック博士は、「排除層の水」とその外側にある「自由水」(ゲル表面からの影響を受けずに自由に存在している水、すなわち普通の水)について、さまざまな測定手法を使って、物理的化学的な性質の違いを調べました。

少し専門的になりますが、電位ポテンシャル、pH(酸性度)、紫外可視スペクトル、赤外線イメージング、複屈折イメージング、NMR、粘度測定などの手法が使われました。その結果として、「排除層の水」は、「自由水」すなわち「普通の水」とは明らかに異なるということがはっきりしてきました。

詳しく述べるスペースはありませんが、NMRや赤外線イメージングの結果から、「排除層の水」は、より秩序だった構造を持っていることが分かってきました。紫外スペクトルの測定結果からは、「排除層の水」は270ナノメートル付近の波長を持つ光(紫外光になります)を強く吸収することが分かりましたが、普通の水にはこのような現象は見られません。

これらの結果から、「排除層の水」の構造は「自由水」と物理的に異なっていることが明確になりました。

実際に「排除層の水」がどのような構造を取っているかということについては、ポラック博士は図2のように考えています。

すなわち左端にある親水性ゲルの表面に水分子が結合します。その水分子に対してさらに別の水分子が結合します。これを繰り返すことによって、左端のゲル表面から右側に向かって、水分子の規則的な層が成長していきます。そして、「排除層」にあたる範囲にある水分子は、あたかも結晶のように規則的な構造を作り上げていくのです。一方、「自由水」のところでは、水分子はこうした規則的な構造を取らずに、自由な形で存在しています。


図2
左端に表示されている親水性ゲルの表面にはプラスやマイナスの電気が分布している。水分子にはプラスの端(黒)とマイナスの端(白)があり、水分子のプラスはゲルのマイナスと結合し、水分子のマイナスはゲルのプラスと結合する。こうして分子一層分の水の層が、ゲル表面に作られる。その水の層の上に、さらにもう一層の水の層が重なっていく。これを繰り返すことによって、液体状の結晶構造、すなわち液晶が形成される。この部分には他の粒子や分子は入ることができずに、押し出される。その結果として「排除層」が作られると考えられる。

さてこのように、ポラック博士の研究を通じて、「化学的にはH2Oとして差異がなくても、物理的に構造の異なる水がある」という「水の構造化」という現象の存在については、ほぼ証明されてきていると言ってよいでしょう。

さて、この親水性表面で「排除層」が形成されるという現象を利用して、2つの応用例がポラック博士によって、示されています。その1つ目は、「排除層」には水以外の物質が入りにくいことを利用して、水を浄化するシステムです。

親水性の素材を使った管を作って、その中に水を通します。すると、管の表面近くで「排除層」が形成されます。この「排除層」においては、水に溶けている物質や浮遊している物質は、文字通り排除されていきます。そこで、管の表面近くの水を、管の中心付近の水から分離すれば、水を浄化することが可能です。

ポラック博士によれば、図3に示す簡単な装置を使って、1回のプロセスで不純物が200分の1になったとのことです。


図3.排除層形成に基づくまったく新しい水の浄化方法
親水性素材でできた管(左上)の中に水を通すと、管の表面には排除層が形成されて、不純物質(右側へ流れる)は除去されていく。管の表面に形成された水層(下側に向かう)のみを分離すれば、水を浄化することができる。ラテックス微粒子を含んだ水で予備実験を行ったところ、1回の操作で微粒子の数を200分の1に減らすことができた。

この方法で純化された水は、不純物が除去されているので、物質化学的により純粋なものになりますが、同時に水自身が構造化された形に変わります。すなわちこの方法は、構造化された水を大量に得るためにも使うことができるのです。

上記の方法で構造化された水が、人間の健康にとっても本当に良いかどうかは、さらなる実験結果を待つ必要がありますが、いずれにしてもこれは、水を浄化するとともに構造化するためのまったく新しい原理に基づく新規の手法であると言うことができるでしょう。

さて2つ目の応用例は、第1の方法よりもさらに画期的なものであり(第1の方法ですら充分に画期的ですが)、人類史に大きな影響を与える潜在的可能性を秘めています。それを以下に説明します。

「排除層」近辺の電位を測定してみたところ、図4に示すように、「排除層」の内部では電位がマイナスであり、一方、排除層のすぐ外側の自由な水の部分においては、電位がプラスになっていることが分かりました。


図4.排除層付近における電位の分布。
左端が親水性物質の表面、EZとある部分が「排除層」、その右側が自由水の領域。

そして、図5に示すように、電位がマイナスの部分と電位がプラスの部分の間に電線を繋ぐと、電力を得ることができることが分かりました。

すなわち、排除層近辺の水から、電気エネルギーを得ることができることが分かったのです。これはまさに、水を使った電池、すなわち“水電池”と呼ぶことができます。


図7.水電池
親水性物質の表面のマイナスと、「排除層」のすぐ外側の自由水の領域を電線で繋ぐことによって電池を作ることができる。

さて、通常、何もエネルギーが供給されていないところからエネルギーを得ることはできません。電力を得ることができるということは、どこからかエネルギーが入ってきていることを示しています。

ポラック博士は、いろいろな実験を繰り返した結果、なんと、外部の環境から来る光が作用して、水にエネルギーを与えていることが分かったのです。外部からの光を完全に遮断すると、排除層が薄くなっていくとともに電位がどんどん減っていくこと、逆に水に光を照射すると、排除層が厚くなっていくとともに電位が高くなっていくことが示されたのです。

これはまさに火(太陽の光)と水の組み合わせからエネルギーを得るシステムであり、今後システムがより洗練されて日常的に利用可能なものになれば、人類社会に革命的な影響を及ぼすのではないかと考えられます。

水 + 光エネルギー → 電気エネルギー


さて、上記のポラック博士の研究は21世紀に入ってから行われたものです。

江本代表は、つねづね「私たちは水についてほとんど何も知らないのだ」と言っています。実際、本シリーズで解説してきていますように、現代科学の世界においても、水に関して、現時点でも新しい知見がどんどん生まれている状態にあることを、読者の皆様にご理解いただければ幸いです。

そして水の構造化、水電池、水の情報記憶など、この地球世界における「エネルギー」と「情報」の流れを本質的に支えているのは水である、と言うことができるでしょう。

水の科学が進歩発展していくにつれて、その成果は、物理学・化学・生物学を大きく変えていくことになるでしょう。そしてまた、人類社会におけるエネルギー問題を解決する上でも水が重要な役割を果たすのではないかと考えられます。

映画「ウオーター」においては、さらに一歩深いところでの水の役割が語られています。それは人間の感情や想念を媒介するものとしての水の働きです。

この辺りになってくるとまさにスピリチュアルな側面に関わってきますが、H2Oである水分子がいかにしてスピリチュアルな面と関係してくるかを総合的に理解するためには、水の構造化や水の情報記憶などについて地道に基礎的な研究を積み重ねていきつつ、基本的な一歩ずつ仕組みを明らかにしていく必要があるでしょう。

【参考】

以下のサイトで、2008年1月30日にワシントン大学で行われた「水、エネルギー、そして生命−水の縁からの新しい見方」という題名の博士の講演を録画したビデオを見ることができます。
http://www.uwtv.org/programs/displayevent.aspx?rID=22222