アーヴィン・ラズロ博士からラスタム・ロイ博士へ

今回第2弾としては、ラズロ博士の著書「コスモス」から、誌面の関係で前回掲載できなかった部分について、触れます。それは代替医療「ホメオパシー」について述べている一節です。その後で、ラスタム・ロイ博士の研究について、解説していきます。

「ホメオパシー」について概要を述べれば、植物の抽出液などの薬効成分を水に溶かして治療薬を作ります。ですが、そのままでは副作用が強すぎる場合もあるので、例えば100倍量の水を加えて原液を希釈します。ホメオパシー薬(レメディーと呼ばれます)の効果は、希釈すればするほど大きくなると言われているので、通常、希釈の操作を何度も繰り返していきます。例えば100倍希釈を30回繰り返して作られたレメディーは30C、200回繰り返して作られたレメディーは200Cと呼ばれます。

30Cの場合には10の60乗倍、200Cの場合には10の400乗倍希釈されたことになるのですが、簡単な化学の計算から、これらの溶液の中には、元の薬効成分は1分子も含まれていないことが分かります。

従来化学の原理に従えば、「薬効成分が1分子もないただの“水”が何らかの効果を示すことはあり得ない」とされて、ホメオパシーは一部で強い批判を受けています。

ところが、実際には、ホメオパシーのレメディーは、動物実験においても、あるいは人間を対象とした二重盲検試験においても、統計的に厳密に分析した結果、効果があるということが実証されています。

ホメオパシー療法が実際に功を奏していることから、元の分子が1分子もない程に高度に希釈された状態であっても、その水は過去に水の中に溶けていた分子に関する情報を記憶しているのではないか、と推測されてきました。ですが、具体的にどのような仕組みで水が情報を記憶することができるのか、ということについては、今までほとんど明らかにされてきていませんでした。

このホメオパシーについて、ラズロ博士は「コスモス」の中で次のように書いています。

2005年、物性科学者のラスタム・ロイらも、水を基本としたホメオパシー治療の有効性を示すのではないかと考えられるメカニズムを明らかにしました。水には、原子構造のおかげでほかの実体にぴったりの雛形を共鳴的につくれる、いわゆるエピタキシーという特性があることを発見したのです。このため、水は、もともとの実体がもう存在しなくても、本質的にその記憶を保てるわけです(訳注:エピタキシーとは、もともとは半導体分野などで、単結晶基板上にその基板の結晶構造に合わせて単結晶膜を成長させる技術のこと)。共鳴とホメオパシー治療の力は振水という行為をとおしてさらに増していきますが、それには水を急激に振らなければなりません。そして、このことがその構造の基本的変化に影響することを、研究者たちは示しているのです。(179頁)

水について深く勉強されている読者の方にとっても、水に関する文脈の中で現れてくる「エピタキシー」という言葉については初耳の方が多いのではないでしょうか。

「エピタキシー」とは、上記引用部分内に訳注として挿入されているように、単結晶基板上の構造を鋳型として、その構造情報に基づいて、規則的に別の結晶を薄膜として成長させていく手法のことを指します。半導体などの分野で広く用いられている手法ですが、ラスタム・ロイ博士らは、水が情報を記憶する際にも、このエピタキシーという仕組みが働いているのではないかと考えているのです。

すなわち、「エピタキシーによって、溶けている物質の形態をピッタリとなぞるような鋳型様の構造を、水は作り出すことができ、水はその構造を共鳴的に保持することができる。高度に希釈されて水分子が一つも存在しなくなったとしても、この水が作り出した共鳴構造によって、物質の構造情報を記憶し続けることができる」というわけです。

さらに、上記引用部分の最後に「振水」という行為について触れられていますが、ホメオパシーのレメディーを作るときには、希釈する度に必ず容器を強く叩くことが必要である、と言われています。この「震盪」という操作をしないと有効なレメディーは作れないのです。ですが、この「震盪」が必要な理由について、今までほとんど追究されたことがありませんでした。

2005年にラスタム・ロイ博士が発表した論文を読んでみると、この「震盪」の意味について、ロイ博士は「圧力の変化」と「ナノバブルの形成」という2つが関係するのではないかと考えています。

震盪することによって一時的に大きな圧力が水溶液の中に生じますが、それによって、水の構造が大きく変化する可能性があります。それに加えて、震盪によって1万分の1ミリ以下の大きさのナノバブルと呼ばれる微小な泡が水の中に生じます。ナノバブルの周辺では、やはり水の構造が大きく変化すると考えられます。これらの効果によって、エピタキシーによって液体の水に刻印された情報が、希釈過程を通して保持され続けるのではないか、とロイ博士は考えているのです。

少し難しい術語などが出てきましたが、ロイ博士はペンシルバニア州立大学の物性科学分野における名誉教授であり、水の科学的研究における世界の指導的科学者の一人である、ということができるでしょう。

ラスタム・ロイ博士は、実はロシアのドキュメンタリー映画“ウオーター”に登場する主要な科学者の1人でもあります。


映画“水”に登場するラスタム・ロイ博士

“ウオーター”の中で、ロイ博士は、「水の科学において、もっとも重要なのは化学的な組成ではなくて、水の構造である」と断言されています。水が情報を記憶するのは、まさに“構造”を通してである、と考えられるのです。

是非、皆さん、この“ウオーター”を一度ご覧下さい。

ちなみに、私は個人的には、「エピタキシー」によって、いわゆる“水の情報記憶”のメカニズムが説明しきれるのかどうか、完全に確信しているわけではありません。極めて興味深い作業仮説ではありますが、それを証明するためにはさらなる実験の積み重ねが必要ではないかと考えています。

ですが、「科学」というものは、本来、さまざまな新しい仮説が提唱され、その真偽が後に実験などによって判定されていき、真実であると認められたものは、旧来の説に取って代わって、その時代の定説となっていく、ということの繰り返しで進んでいくものです。

従って、「エピタキシー」や「ナノバブルの形成」などの新しい仮説が提出されていくのは、極めて健全な科学の発展における姿です。

逆に、もっとも科学的でない態度は、深く考えもせずに他の可能性を切り捨てて、「そんなことは科学的にあり得ない」と、その時点での定説や常識に基づいて頭の中だけで断定してしまうことです。

「水が情報を記憶するなんてことはあり得ない」どころか、一流の科学者の世界においては、「水が情報を記憶する仕組みについての仮説が提出され、それの実証もしくは反証すべくさらなる実験が進められている」というのが実態であり、これこそがまさに「真の科学」と言えるでしょう。

なお、ご参考までに、2005年のロイ博士の論文は以下になります。

Rustum Roy, William A. Tiller, Iris Bell, and M. Richard Hoover, “The Structure of Liquid Water; Novel Insights from Materials Research; Potential Relevance to Homeopathy”, Materials Research Innovations, 9:577-608 (2005)

# インターネットでも見ることができます。
# http://www.rustumroy.com/Roy_Structure%20of%20Water.pdf

論文のタイトルを翻訳すると、「液体の水の構造;物質研究からの新しい洞察;ホメオパシーとの潜在的な関連性」となります。

論文の共著者にウィリアム・ティラー博士が含まれています。ティラー博士は結晶学が専門のスタンフォード大学名誉教授であり、「私たちは一体全体何を知っているというの?!」という映画にも登場している著名な科学者です。

物質科学分野における一流の科学者としての経歴を持ちながら、ティラー博士は意識の世界の研究も長年続けて来られています。そして、人の意識によって水のpHが変化するということを実証したりされています。

代替医療に興味がある方にとっては、ティラー博士は「バイブレーショナル・メディスン」(リチャード・ガーバー著、上野圭一監訳、日本教文社)の序文を書いていることでも知られていることでしょう。同書の中で、「ティラー/アインシュタイン・モデル」というものが提示されています。

ロイ博士とティラー博士の共著であるこの論文の中では、ホメオパシーの仕組みだけではなくて、気功の気のエネルギーやヒーラーのヒーリング・パワーなどのいわゆるサトル・エネルギーを水に与えたときの水の変化などについても議論されています。

「水からの伝言」は、水の結晶構造の変化を通して、人の意識が水の構造に変化を与えるのではないか、ということを示唆してきました。同じことを、世界の一流の科学者たちは、地道に作業仮説を立てて、実験を積み重ね、一つ一つ実証していくことによって、科学の世界で確立しようと努力を続けているのです。