ジャック・ベンベニスト博士中編》

−高度希釈実験から転写実験へ−

一流の科学者が証明した“水の記憶”

今回は前回に引き続き、“高度希釈実験”についての解説を行うとともに、“転写実験”についてのジャック・ベンベニスト博士の実験について触れていきます。

「ベンベニスト博士の実験結果について、今一度、真剣に考え直してみるべきではないかと筆者は考えています」と先月号の記事で書きましたが、その理由は以下の通りです。

  • 1970年代には、ベンベニスト博士は免疫やアレルギー反応の分野における一流の研究者として活躍しており、医学の教科書にも記載されている“血小板活性化因子”と呼ばれる重要な因子の発見者として国際的にもよく知られている。この研究分野において、ネイチャーで4つの論文を発表しており、ノーベル賞に2回ノミネートされている。そのような輝かしい経歴を持つ研究者が、“水の記憶”に関して、虚偽の報告をするということは考えにくい。
  • ネイチャーが1988年に論文を受理するまでに、ベンベニスト博士は、盲検法を導入した実験も含めて高度希釈実験を300回以上繰り返しており、再現性を確認している。またフランス以外の3つの国の研究所においても実験が再現している。
  • ネイチャーの調査団が報告した実験結果は、前回も触れたように大きな心理的圧力と懐疑的な雰囲気の下で行われた実験に基づいている。しかしながら、水の情報記憶に関する実験においては、関わる人々の意識やエネルギーの質によって結果が左右されることがあり得る。
  • “水の記憶事件”以降、他の研究者たちによって、ベンベニスト博士の実験結果が再現されないとする論文もいくつか発表されたが、“高度希釈活性”を確認した論文も発表されている。

従って、筆者としては、ベンベニスト博士の実験結果は、現時点において科学的に完全に否定されているわけではないと考えています。客観的に状況を判断すると、未だその真偽については決着が付いていないというのが正しい捉え方でしょう。

またベンベニスト博士の論文を丹念に読むと、以下のような実験結果が記載されていることが分かります。

  1. 抗IgE抗血清以外のいくつかの試薬を使った場合にも、周期的な“高度希釈活性”が検出された。
  2. “低度希釈活性”と“高度希釈活性”の性質には、以下のような違いがあることが分かった。
    • 分子量1万以下の分子のみを通すフィルターで濾過した後の濾液を調べたところ、“低度希釈活性”は観察されなくなったが、“高度希釈活性”は観察された。
    • 抗IgE抗血清を使った場合であっても、その他の試薬を用いた場合であっても、“高度希釈活性”は、以下の処理によって、一様に失活すること(活性が失われること)が分かった。
      • 70~80℃で1時間程度の加熱
      • 凍結融解(凍らせた後に溶かすこと)
      • 超音波処理
      • 磁気処理
  3. ベンベニスト博士は、好塩基球の脱顆粒反応の他に、モルモット心臓のランゲンドルフ灌流モデルに対するヒスタミンの作用、ヒト培養細胞のカドミウム耐性、珪素を経口投与することによるマウスの血小板活性化因子量の変化などの反応系において、“高度希釈活性”を見出している。

1 から、好塩基球の脱顆粒反応において“高度希釈活性”が観察されるのは、抗IgE抗血清に限るものではなく、より一般的な現象であることがわかります。

また、3 から(ちょっと難しい技術的用語が出てきますが、ここではそれらを理解する必要はありません)、好塩基球の脱顆粒反応以外にも、さまざまな生物学的な系において、“高度希釈活性”が観察されることが分かります。

すなわち 1 と 3 から、“高度希釈活性”は、ある特定の極めて限られた特殊な実験条件下でのみ観察されるものではなくて、広く観察される一般的な現象であるということなのです。

やや専門的になりますが、上記の 2-a と 2-b もまた極めて興味深い結果です。

2-a から、“高度希釈活性”を表している実体は、抗血清中の有効成分である抗体ではないことが再確認されます。なぜなら、抗体の分子量は約15万であり、比較的大きいので、分子量1万以下の分子しか通さないフィルターを通り抜けることができないからです。

同じ理由から、抗体の形状を水分子が(安定な構造として)立体的に模倣することによって、情報が保持されているのではない、ということも分かります。

物理的実体としては、分子量1万以下の大きさでありながら、抗体が持っている情報や機能を発揮することができるようになっていると考えられます。実験系の中に含まれている化学的な成分として、実際にもっとも可能性が高いと考えられるのは、水分子そのものです。

また、2-b から、“高度希釈活性”は、元の試薬が何であれ、いつもほぼ一定の温度範囲で失活することが分かります。もし有効成分として働いている個々の物質が関与するとしたら、その物質の構造や性質の違いによって、熱で失活する温度はそれぞれに異なってくるはずです(“低度希釈活性”については、実際にそのようになります)。

ですが、いつも一定温度で失活するのであれば、例えば液体の水を構成している水分子のネットワークが作り出すクラスター構造などが、情報の記憶に関わっているかも知れないことを示唆します。これらの水分子のネットワークは温度が上昇するとともに、一定の割合で壊れていくと考えられるからです。

凍結融解によっても失活するというのもまた、極めて驚くべき結果であって、多くの物質は凍結融解を行っても失活しません。ですが、水分子のネットワークに関わる微妙な構造であるならば、凍結融解で壊れる可能性があります。これについては、「雪解け水がもっとも健康によい」と言われることと関係がある可能性があります。

さらに、一定の磁場で失活するということからも、何らかの物質が関わっているのではなくて、水分子のネットワーク構造、あるいは水分子の集合体が作り上げる電磁場構造のようなものが関わっていることを示唆します。

多少、理解の難しい表現があったかも知れませんが、このように、論文の中に記載されている興味深い知見の数々を丹念にかつ総合的に読み直していくと、“高度希釈活性”に関連して、さまざまな性質が明らかにされてきており、ベンベニスト博士の実験結果が単なるでっち上げであるとは到底思えなくなります。

一流の科学者が証明した“水の記憶”

さて、ベンベニスト博士は、こうした一連の高度希釈実験を行っているうちに、特に、上に書いた 2-b の磁気処理によって“高度希釈活性”が失活する点に興味を持ちました。

そして電磁気学に詳しい同僚と議論を重ねた結果、磁気処理によって失われるような活性であるのならば、その活性そのものを電磁気的に記録することができるのではないか、という考えに至ったのです。

すなわち有効成分を含んでいる水溶液が発しているであろう電磁波情報を、コイルを使って“録音”することによって、記録することができるのではないか、さらにその情報をコイルを使って、ただの水に対して“再生”することによって、水に情報を転写することができるのではないか、と考えたのです。

この実験は、“転写実験”と呼ばれます。“高度希釈実験”よりも、“転写実験”の方が、実験系としてはきれいであり、結果の因果関係は明確です。

そして驚くべきことに、実際に“転写実験”を行ったところ、実験は成功したのです。

《後編》に続く…。

【参考文献】

  • “Human basophil degranulation triggered by very dilute antiserum against IgE”, E. Davenas, F. Beauvais, J. Arnara, M. Oberbaum, B. Robinzon, A. Miadonna, A. Tedeschi, B. Pomeranz, P. Fortner, P. Belon, J. Sainte-Laudy, B. Poitevin and J. Benveniste, Nature, 333: 816-818 (1988)
  • “’High-dilution’ experiments a delusion”, J. Maddox, J. Randi and W.W. Stewart, Nature, 334: 287-290 (1988)
  • “The Memory of Water”、Michel Schiff、Thorsons (1994)
  • “Ultra High Dilution - Physiology and Physics”、Edited by P.C. Endler and J.Schulte、Kluwer Academic Publishers (1994)
  • “Homeopathy Research - An Expedition Report”、P.C. Endler、EDITION@INTER-UNI.NET (2003)
  • “フィールド 響き合う生命・意識・宇宙”、リン・マクタガート著、野中浩一訳、河出書房新社(2004)
  • “真実の告白 水の記憶事件”、ジャック・ベンベニスト著、フランソワ・コート編、由井寅子日本語版監修、堀一美・小幡すぎ子共訳、ホメオパシー出版(2006)